君は誰







この人は、誰?



今、僕の上にいるこの人は、誰?






強い力でベッドに倒されて、僕の両手を片手でまとめ上げらてシーツに押さえつけられた。
月も星も見えない、真っ暗な夜。
せめて、月が出ていればよかったのに。



そうしたらきっと、あの柔らかに光る金色の髪が、月明かりに映えてとてもきれいだったろう。

…でも、何も見えない。金色の光も、淡い水色の瞳も。



せめて、見えていれば。





何とかして頭上で拘束された両手を自由にしたくて、足掻く。
不意に動き出した僕に気が付いて、押さえつける力が強くなった。
力が込められて、両の手首にずきん、と痛みが走る。きっと、痕が残るだろうな。押さえつけた、指の痕が。



更に強くなった力に、もう僕の力ではどうにも出来ないと諦めて抵抗を止める。どう足掻いたって、この力に敵うはずはないし。魔法なんか、使えない。
全身の力を抜いて小さく息をつく。


その瞬間、口づけられた。



深く、深く探られる。





突然の事に驚く間も与えられず、乱暴に与えられるキスを目を閉じることなく受け入れる。何が起こっているのかわからなかった。舌が絡められ、呼吸すら奪おうとする。

こんなキス、知らない。
僕は知らない。
こんな風に口づけるこの人を、知らない。


そう思った途端、背筋を何かが這い上がり、ぞくりとした。


知らない感触。
知らない。
いや。
怖い。




こわい …………知らない、ひと。










「…いや、ぁ……。怖…い」

やっと、声が出た。唇が離れされてもまだ僕の呼吸は整っていなかったので、切れぎれに、だけど。


細い声だったけれど聞こえたようで、両手を戒める力が弱くなった。気が付いて、少し手を動かしたらそのままそっと、手首を包むように柔らかく握られた。
思ったとおり、僕の手首には掴まれた指の後がついている。赤く残るその痕を、優しく撫でてくれた。優しく撫でて、それから軽く口づける。





その時、雲が晴れたのか月が空に浮かんだ。



まるい満月。
おんなじ色をした髪の人を、知ってる。




月明かりが窓から部屋に差し込んで、金色の髪の毛が柔らかく光る。
淡い、水色の瞳。


「…………ごめん………!」

見上げたその顔は、僕のよく知っている人。
知らない人じゃない、僕のいちばん傍にいる人。

「ごめん…ごめん、本当に…俺…」
今にも泣き出しそうな顔で謝る。こんな表情、見たことなかった。こんな顔で、泣いたりするんだ。
…僕の、知らない顔だ。





ああ、そうか。



知らない人じゃなかったんだ。ただ、知らなかっただけで。
僕の知らなかった表情で、知らないキスをしただけで。


そおっと腕を伸ばしたら、優しく抱きしめてくれた。とくん、と心臓の音が聞こえる。あたたかい場所。

ただ、顔が見えなかっただけ。
知らなかったから、怖かっただけなんだよ。
ちゃんと顔が見えていたら、声が聞こえていたら、きっと怖くなかったよ。




だから、顔、見せてよ。
泣き顔でも何でもいいから。
俯いてしまった顔を上げて。

顔、見せて?



「ジタン」




小さな声で呼んだら、顔を上げてくれた。少し体を離して覗き込む。
水色の瞳は、ほんの少し涙がたまって、きらきらしているのがなんだかおかしかった。




何も怖いことはなかったんだ。
ここにいるのは、僕の大好きなひと。

大好きな、


「…ジタン」






p.s.

ジタンさん、最悪!
…でもいちばん最悪なのはこんなもの書いちゃった私。

私の書く文字ものはプロットだ、と言いました。
実際、このサイトに書き散らしてあるものは、読んでると頭の中でコマ割
とかが出来るものもあったりします。
…でもこれは漫画に描けません…(笑)。
痛いのも無理矢理なのも苦手だからです。
…痛いことはしてないけどさ。未遂だけどさ。
ビビちゃんがもの分かりよすぎて、かえって心配になっちゃうけどさ(笑)。

というわけでジタンさん未遂事件(笑)。
「君は誰」というお題を見たときからこんな話しか思いつきませんでした(笑)。
………すいません(T_T)。
2003.7.22