いつからか、境界線ができている。
キスは、額だけ。
夜は、一緒に寝ない。
膝に抱き上げてくれることも少なくなった。
そのくせ、いつもそばにいてくれる。
僕が気がつかないと思ってるのかな。
子供だから、分からないと思ってるのかな。
でも僕は、ジタンが思ってるほど子供でもなければ、何も分からないわけじゃないんだよ?
いつだったか、フライヤが
「ジタンには『ちいさい』ビビが必要なのかもしれぬな」
と、僕に言ったことがある。
あの時はよく分からなかったけど、今は分かる。
小さくて、何も分からなくて、そんなこと考えもしない、まっさらな生き物。
そんなものが、ジタンの思う僕だ。
だから、この境界線を引いたんだ。自分の手で、なくさないように。
でも僕はそんな綺麗なものじゃない。
額に触れる唇の熱さ、たまに抱き上げてくれる腕の暖かさ。
おやすみなさい、とベッドに入る時の一瞬のため息。
その奥にあるもの。
自分で引いた境界線への、苛立ちと衝動。
それでも、ジタンはこの境界線を越えられない。
それなら、僕のほうから越えてみようかな。
ジタンの引いた、ギリギリの境界。
この境界のせいで、ジタンが遠くなるなら、
こんな境界、僕にはちっともありがたくなんかない。
ジタンが僕を見つけて、そばに来てくれる。
その腕を取って、背伸びして、ふわりと唇にキスしたら。
どんな顔をするのかな。