「おねえちゃん」
ビビが、小さな手を私に差し出した。てのひらの上には小さな包みがあった。薄いピンクの可愛らしい包み紙。
「どうしたの?これ」
「エーコとお買い物に行ったら、道具屋のおばちゃんがくれたの」
ぼんやりと、その時の光景が目に浮かぶよう。きっと、エーコと二人できゃあきゃあと楽しそうに買い物をしていたんだろう。両手一杯の荷物を持って(というかエーコに持たされて)よろよろと店を出て行くこの子を見て、道具屋のおばさんも微笑ましく思ったに違いない。つい、おまけしちゃうわね。
「そう、よかったね。で、中身は何?お菓子かな」
小さな包みは、中身はそれほど多くなさそうだけど可愛くラッピングしてあった。ビビはがさがさとその包みを開けてはい、と私に差し出してきた。
「砂糖菓子、なんだって。可愛いでしょ?エーコが食べてるのみたら、お姉ちゃんにあげようって思ったんだよ」
「…私に?ビビ、甘いもの好きでしょ、食べないの?」
「うん。…おねえちゃんにあげる」
小さな砂糖菓子が数個。柔らかな色合いで、優しいフォルムのそれらは、確かに女の子が喜びそうなお菓子だけど。
……なんで私に?
本当は少し、この子が苦手。とてもきれいで、本当に可愛いんだもの。少し内気だけど、とても優しい可愛い子。
そして、私の本当に欲しいものを手に入れた子供。
……本人は分かっていないんだろうけど。それから、あの人も知らないと思っているだろう。
気がついちゃったら諦めるしかないけれど、それでも私はこの子が苦手。ビビのことは大好きだけど、それとは別に動く心をビビを見るたびに思い知らされる。心の中に流れるマイナスの感情を自覚しながら、この子に笑いかける自分を嫌いになっていく。
今も、平気でにっこり笑いかけることが出来る。この子への嫉妬も何もかもきれいに隠して、優しい「お姉さん」の顔で。
私は案外、嫌な女かもしれない。
「じゃ、いただきます」
ビビのてのひらの上の砂糖菓子を1つつまんで、口の中に入れた。さくり、と噛み砕くと舌の上で砂糖が溶けてなくなる。仄かに花の味のする甘みが口の中に広がった。
…………あまい。
「ビビも、はい」
あーん、と言いながら砂糖菓子を1つ、ビビの口元に持っていく。声につられて小さく口を開いたので食べさせてやった。
「美味しい?」
「うん…このお菓子見たときね、おねえちゃんみたいだなって思って。きれいな色で可愛いくて、なんだかふわふわしてるでしょ。だから」
「…だから、くれたの?」
「うん!」
にっこりとビビが笑って、大きく頷いた。
私より、このお菓子はあなたの方が似合うのに。
柔らかで可愛い、甘いビビの方がよほど似合う。優しい甘さは、あなたそのもの。
「…おねえちゃん、甘いの、嫌いだった?」
1つつまんだだけで、ぼんやりしていた私に心配したんだろう。ビビが心配そうに聞いてきた。
「…ううん。大好きよ。ごめんね、………本当に、大好きなの」
「よかった!まだあるよ、ほら」
「ビビ、一緒に食べよ?」
本当に、大好きなのよ。甘い甘い、砂糖菓子みたいなあなた。嫌いなわけがないのに、どうしてもまっすぐに見ることが出来ない。いっそ、気がつかなければよかったのにね。
砂糖菓子をもう1つ、口に入れた。
「ありがとう、ビビ」
ふわりとした優しい甘さを、少し苦い気持ちで味わいながら、にっこりと笑う。
この子に、こんな気持ちが気付かれませんように。
もう少ししたら、きっと大丈夫だから。
「大好きよ」
そう言うと、ビビはとても嬉しそうに笑った。