朝の、ひかり。
いちにちがはじまる。
「今日はどこまで行くの?」
「んー…と、この街でアイテムの補充して、ついでにちょっと装備も見て…ってクイナ!俺の飯まで食ってんじゃねえよ!」
「とろとろ食べてるのが悪いアルよー」
いつもの朝の食卓。ジタンの朝ご飯まで食べ尽くして、すっかり満足しているクイナに掴みかかろうとしてフライヤに止められているジタン。我関せずで静かに食べているサラマンダーと、そんなみんなを何故だか嬉しそうに見ているおねえちゃん。おねえちゃんに体にいいからとサラダを山盛りに盛ってあげて、食べきれるわけないじゃないとエーコにつっこまれているスタイナーのおじちゃん。
いつもの風景。
「…ビビ?食ってんのか?」
ふと、ジタンに声をかけられて、まだ殆ど手をつけていない自分のお皿に気がついた。他のみんなはすでに食べ終わり、それぞれ支度をしに部屋に戻ろうとしている。
「あ、ちょっとぼんやりしちゃった。みんなもう食べ終わってるのに、ごめんね」
「謝んなくていいから、しっかり食いな。食べねーと大きくなれないぞ?」
くしゃり、と帽子の上から頭を撫でてくれた。ジタンに頭を撫でられるのはとても好き。僕より大きな手で、その手はとても暖かい。ジタンはそのまま、空いていた僕の隣の席に座った。
「慌てて食ってもつまらせっから、ゆっくり食えよ」
ジタンが笑いながらそう言って、僕にはオレンジジュース、自分にはコーヒーを淹れて窓を眺める。つられて僕も窓を見た。
抜けるような青空。白い雲はくっきりと浮かび、動き出す街の音と、誰かのおはようの挨拶。差し込む朝の光はきらきらとひかり。
ああ、なんて。
なんて、きれい。
「…ビビ?」
遠慮がちに、だけど優しくジタンの指が、頬を拭ってくれた。それでも止まらない涙が、ぱたぱたと落ちる。
泣き顔を見られたくなくて、俯いた。
やがて来る朝と、その時と。
毎日の戦いと、誰かの血と、涙と。
見たことのない風景と、初めて交わす言葉。
壊れていく街と、壊れていく人。
愛しい人たちとの時間。笑顔。
きれいなせかい。
僕に、何が出来るんだろう。この美しい世界の輪から外れている僕に。
それでも。
「…一人で泣くんじゃないって」
ふわり、と抱き込まれた。不意に包まれた暖かさに無意識に擦り寄る。ジタンの心臓の音が聞こえて、それは僕をとても安心させた。
「ジタン」
小さく呼んで、背中に腕を回した。触れた体温は暖かく、とても優しい。
「ここでなら、いくら泣いてもいいぞ?」
そう言いながら、強く抱きしめてくれた。
心臓の音。上から落ちてくる優しい声。頭を撫でてくれる手。体温と。
「…ありがと、ジタン」
「どういたしまして。……泣くなら、俺の傍にしてくれよ。でなきゃ、俺が辛い」
一人で泣かなくていい、そう言ってくれる大好きな大好きな人が傍にいてくれる。
このいとおしい世界を守ることができるなら、僕はなんでも出来るよ。
背中に回した腕をほどいて、顔を上げた。そのまま爪先立ちをしてジタンの首に腕を回して。
僕の、いとおしい世界の中心にいる人にキスをした。