てのひらの温度






ジタンが僕の手を離そうとしない。


理由はなんとなく分かってるんだけど、少し居心地が悪い。エーコはずっと怖い顔して睨んでるし、僕に合わせて歩くから前を歩くみんなから少し遅れてしまった。いつもなら、ジタンが一番前をずんずん歩いて「速すぎる」ってエーコやお姉ちゃんに怒られてるのに。

…ねえ。僕は大丈夫だよ?

「ジタン、手、離していいよ。手繋いでると僕、いつもより歩くの遅くなっちゃうし」
「いいよ別に。俺がこうしてたいんだから」
焦れたように僕たちを呼んでるエーコの声にさすがに申し訳なくなって手を離そうとしたけれど、僕の手を強く握る力が許してくれそうにない。
諦めて、心の中でエーコとみんなに謝る。ごめんなさい、もうちょっとだけ。このあたりもモンスターが出る場所だから、あんまり長い時間、ジタンを独り占めにはしないから。

「俺が、じゃなくて僕もだよ?ジタンと手繋ぐの、好き」
少し恥ずかしかったからジタンの顔を見ないで呟いた。そして、繋いだ手に少し力を込める。
なんだか手袋が邪魔な感じがする。直接手を繋いだらジタンの手の平の温かさが気持ちいいのに、布越しだから微かにしか伝わらない。
もどかしくなってジタンの顔を見上げたら、少し複雑そうな顔をしたジタンと目が合った。何でそんな顔、してるの?
「…ジタン?」
何故か不安になって名前を呼んだら、きゅ、と強く握ってくれた。それから、笑顔。
「じゃ、今日はずっと手、繋いでよ。モンスターが来てもこのまま戦う」
「……なにゆってんの…」
笑いながら馬鹿なことを言うジタンにほっとして、僕も笑った。笑えた。大丈夫、まだ大丈夫。





僕らは誰に祈ればいいんだろう。288号なら知ってるかな。僕は『かみさま』に作られたものじゃないから、僕のお祈りは届かないだろうし。
…それに、本当は『かみさま』もよく分からない。
祈る相手も分からないのに。

それでも、何かに祈る。

どうか、どうか全てが終るまで止まらないように。
隣を歩くこの人の、少しでも力になれますように。
大切なものを守ろうと、必死で足掻くこの人の力になれるように。
…どうか、少しでも長く、この人といさせてください。




前方から、しびれを切らしてエーコが駆け寄ってくる。
「いいかげんにさっさと来なさいよー!」
「ごめんごめん、でもいいだろ?もうすぐ目的地にも着くしさ」
ジタンが笑いながら僕と繋いでる手はそのまま、反対の手をエーコに差し出す。
「それともエーコ、一人で歩くの怖い?俺と手、繋ぎたい?」
「―――!そんな子供じゃないわよっっ!」
笑顔でそんなことを言われて、エーコはくるりと回れ右して元来た道を駆けて行った。戻ったところでサラマンダーに八つ当たりしてる。彼は付き合いきれないのか、エーコを片手でつまみ上げてお姉ちゃんに手渡した。


「僕も別に、1人で歩くの平気だけど」
「…知ってるよ」
ジタンは少しかがんだのか、僕の耳元で優しい声がする。
「……俺が、怖いの」



どうか、もう少しだけ。





******end






















p.s.

絵描きの初めて書いた文章ですので大目に見てやってください…。
漫画で描こうとしたんですが、ちょっと違うかな?と思ったので思い切って文章にチャレンジ。
最後までかけたこと自体がびっくりでした(笑)。
読み返すといつもの私の漫画がそのまま文字になっただけな感じですが。

設定としては288号に黒魔道士の寿命の話を聞いた直後あたり。
不安定なジタンさんがちょっと見てみたかった(笑)。
…そして子供とは思えないビビさんの思考回路はどうなのこれ…。
(2003.3.27)